2009年02月28日

第1回伝統構法を考える勉強会報告(1)・・・伝統木造の耐震性に関する誤解

伝統構法のとらえ方
  ◆報告はNPO法人伝統木構造の会がまとめました。
 第1回伝統構法を考える勉強会報告 2009.02.28
   (1)伝統木造の耐震性に関する誤解
   (2)伝統木造の耐震要素(土塗り壁・柱の曲げ・貫)
   (3)建物全体の挙動(水平構面・建物全体の構造モデル)
   (4)実験・測定の例(建築研究所の実験・E-ディフェンスの実験)


 私は伝統木造に関しては、学生の時代に遡っていろいろやってきました。伝統木造については、わかっていることも結構ありますが、わからないこともまだたくさんあります。
しかし、木質構造の耐震という観点から研究をしている研究者のグループは、人により表現の仕方など若干の違いはありますが、耐震工学という観点からの理解により、ある程度の共通認識があります。
 一方で、大工さんあるいは設計者の方は、伝統木造に対して、こうすれば強くなるのではないかというイメージを持ってますが、これは研究者と一つの場で話をするとだいたい食い違います。今日はその食い違いを埋める、一つの良い機会だろうと考えています。ただ我々の考え方を一方的に押し付けるのでは無く、工学的に考えればこういう見方もあるというところを是非ご理解いただきたい。
それは100%正しいと限らないし、間違ったことも言っているかもしれない。しかし、工学的に考えるとそういう見方もあるということを、いくらかでも今日目にしていただけたらと考えています。
 最初に今まで色々な人とお話をした中で、「いや、それは違うんじゃないか」と我々が感じてしまうことを申し上げたい。
  

伝統木造の耐震性に関する誤解・1
 伝統木造の耐震性に関する誤解・1 
「石場建ては免震効果がある。柱脚を止め付けない方が地震に対しては良い。」

 「石場建てだと、足元が滑るから免震効果がある。柱脚を止め付けない方が地震にとっては良いのではないか。」そういう話をよく耳にします。そういう効果も確かにあることはあり、一概に間違いでも無い。後で建研の振動台実験を紹介すると、まさにそれをやっているんじゃないの、とよく言われます。しかし、よく考えると、石と柱の根元の間の摩擦係数は、動摩擦係数で0.4くらいあります。動摩擦係数というのは動き出してからあとの摩擦係数ですが、動き出すまでの止まっている状態での静止摩擦係数はさらに高く0.5〜0.6くらい、0.7あるという人もいます。それは石の表面の状態などで変わってきます。
 一方で、建築基準法で言っている大地震動、許容応力度設計で使うレベルではなく、さらに大きな、本当に倒れるか倒れないかを検証する建築基準法の入力地震は、足元の摩擦係数が0.3〜0.5あるのと同じくらい(1階のせん断力で自重の0.3〜0.5倍)の設計になっています。石場建てと同じくらいの摩擦係数です。つまり足元が動いても動かなくても摩擦がそれだけあったら、上ものには基準法で想定しているくらいの入力は入ってくると考えた方がよいので、滑ろうが滑るまいが上ものの設計は一緒です。
 最近の免震住宅でも同じ様な話があり、摩擦の少ないものの上に乗せて滑らせる、滑り系のタイプだと、一生懸命、摩擦係数を減らして0.1以下にしています。しかし、上ものの設計は決して楽にはなっていません。そういうことを考えると上物の設計は、足元を止めなくても、止めたとしても助かるようにやらないと今の基準法はクリア出来ません。
 もう一つ怖いのは、足元がばらばらに動いてしまうことです。この場合、滑るという話の以前にアウトです。
 写真1は、兵庫県南部地震の淡路島で撮った写真ですが、足下がばらばらに動いた例で
す。柱の根本が滑って横に動き、貫もはずれ、壁が脱落していました。そうなると耐震性能は、がくっと落ちてしまう。このようにばらばらに動いたら、これは倒壊に至る危険性が出てきます。
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 写真1:兵庫県南部地震被害 写真2:能登半島地震被害

写真2は、昨年能登半島地震で撮った写真ですが、赤紙が貼られた住宅で、写真で撮ると被害が小さく見えるので、大したことが無いように見えましたが、中に入ってみると傾いて、障子も破れているような結構な被害です。設計で言えば安全限界を超えています。柱が折れていますが、何故こうなったのでしょう。
 2009_0228_zu01.jpg 図1は、写真の建物のものではありませんが、同じ様な形式の建物のプランです。通り庭を持つ町屋形式の建物なので、壁がたくさん入っている外壁と、壁が少
なく開口部が多い、通り庭と座敷の間の柱列の足元が通り庭で分断され繋がれていません。地震動の入力は、この地域ではどちらかというと建物の奥行き方向に
強かったので、外壁列のように壁が多く堅いと、傾くより先に滑ります。ところが一つ内側の構面は、柱と差鴨居や垂れ壁があって、桁・梁があってという壁の
少ない構造なので、柱が曲がり、かなり柔らかい構面になっています。感覚的に理解できると思いますが、堅いものは滑りやすく、柔らかいものは滑らないで上
が傾きます。
 外壁の構面は堅いので、滑って30pほど前に飛び出します。ところが一つ隣の構面は柔らかいので滑らず、外壁が前に飛び出すのに引きずられて前へ傾く。滑るところと、滑らないところがあると、写真のような被害が起きてしまう可能性があります。
 滑らせる設計をしようと思うと、まず足元は一体に動くというのが必須条件だと思います。足元を一体に動かす設計は可能ではありますが、通り庭などがあったら、どのように処理したらよいのかと、大変悩ましいです。
 図1:伝統的構法による住宅の平面図
 最初からこういう話ばかりしていると、本当にけんかを売りに来たのかと言われそうですが、決してそうではなくて、「最終的には同じところへみんなで一緒に到達しましょうよ。」という、そういうつもりで話をしています。

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 伝統木造の耐震性に関する誤解・2
「伝統木造は柔構造なので入力が小さい。」

 柔らかいからという言い方がよくされます。「しなやかに力を逃がして」という表現がされたりもします。構造の専門家でない人がそういう言い方をするのは別に構わないと思いますが、私はそういう言い方は絶対にしません。そのような情緒に頼るような表現というのは、工学者は慎まなければいけないと自ら考えています。本当に柔構造で入力が小さいのならそれはちゃんと数字で示せば良い話。現在、数字で示すことが出来るかと言えば、まだ示せる領域にはありません。
 柔らかいとは言っても固有周期がかなり延びてこないと基準法の想定する地震動で、地震入力は小さくなりません。今の免震住宅の様なものになれば入力は実質小さくはなります。しかし伝統木造は、重要文化財の民家などの固有周期を計ると0・5秒以下で、1秒間に2回以上揺れます。相当柔らかい伝統木造でも、その位の堅さはあります。そのくらいの堅さ(柔らかさ)だと、まだとても入力が小さくなるレベルでは無い感じがします。
 それはまた地盤との関係もあり、伝統的な建物は地盤を選んで建てよと、昔から言われていました。軟弱な地盤でそういう柔らかいものがあるとむしろ危険なことが起こり得ます。五重塔くらいになると、微少な振動に対して固有周期が30m級のもので、だいたい1秒。そのくらいになると、そろそろ地震入力の低減というのがあるかなという感じです。
 柔らかいから助かるという話は、基準法の波を考えても多分成り立たないし、地震動の性質によっては本当に危ないことになる場合があります。「柔構造だから力を逃がして入力が小さくなる」というのは、住宅レベルでは誤解だと言い切っていいと思います。

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 伝統木造の耐震性に関する誤解・3
「伝統木造は現代構法より粘りがあるので傾いてもなかなか倒れない。」

 これも良く言われます。ある面そういう面が無いわけではない、そういう建物もあります。しかし、ガチガチですぐばらばらになりそうな現代木造を実際に引っ張って倒してみると1/3位傾いても倒れません。1/5ならまったく大丈夫。伝統木造もやはりその位が倒壊限界です。間違えないでほしいのですが、倒壊限界がどこにあるかをちゃんと実験すると伝統木造も現代木造もだいたい一緒になります。むしろ伝統木造で、柱が折れてしまうような破壊形態を示すものは、粘りがないと思った方がよいのです。
そうすると一概に伝統木造だから粘りがあるという言い方は間違いで、伝統木造にも粘りのあるものから無いのまであり、現代木造でも同じなので、先入観を持たないでほしいと思います。つぶさに見ていくとどのような構法でも、良いのもあれば悪いのもあります。

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 伝統木造の耐震性に関する誤解・4 
「伝統構法は総持ちである。個々の耐震要素というような考え方は当てはまらない。」

 今日の案内文に「総持ち」という言葉があります。「総持ち」という言葉を使うこと自体は、よくあるので良いのですが、私は絶対、伝統木造は「総持ち」だという言い方はしたくありません。何故かというと、構造要素がすべて拾えてくれば、それは個々の構造要素の持っている性能、それらが相互に関連して発揮する効果、そういうものですべて表現されるはずです。そう考えると、別の言い方をすればあらゆる構造物は「総持ち」です。伝統木造も総持ちですが、分解していって説明が出来なければ設計にはならないはずなので、かなりの所まで分解していって説明が出来るはずです。そこまで行ったら総持ちと言っている意味というのはほとんどなくなります。工学的な態度としては、そのように分解してそれをまた総合して、表現できるというところを目指すべきだと思っているので、「総持ち」という言葉は使わない、というのが私の信条です。
 そういう目で見ると、2×4(ツーバイフォー)も「総持ち」になります。「2×4も総持ち」の意味とは何か?と言えば、2×4は、個々の構面が効いているだけではなく、その直行方向にある直行壁の効果が大きい。水平構面を固めている効果もありますが、例えば、壁が面外に倒れようとする時にも、その壁に取り付いている直行壁が抵抗するとか、効いている方の壁の柱が倒れようとするときにその柱に横から取り付いている部材がねじれることで抵抗するとか、このような三次元的な話でも、すべて分解していけば説明できるはずであり、それを「総持ち」という曖昧な言葉で表現したくないのです。
 多くの部材が何らかの機能を持っているのは確かなので、その中で、まず総体をつかむためには、効果の大きいものから着目して行くというのは、工学的なアプローチの普通のやり方です。それに対して批判もあり、要素として効果の小さいものを全部切り捨ててしまうのは、いかがなものかとよく言われます。しかし、地震に耐えるというのは、言ってみれば戦をしているようなもので、兵力を数える時に、全部の兵力が千人いると数えるのか、そこに一騎当千の強者が何人いるかと数えるのかという話です。効果の大きなものに着目してそれを拾っていくと、その建物の持っている性能はかなりの精度で推定が出来ます。そこに小さなものを加えてもあまり結果は変わらないはずです。そこで何の効果が大きく、何の効果が小さいかというのを見極めることは大変重要になってきて、そこで大工さんと時々意見が食い違ったりもしますが、まず効果の大きいものに着目するという態度は決して間違いではない、と私は言いたい。もちろん将来的には、効果の小さいものも精度を高めるためには、カウントしていけば良い話であり、そうなったときに、もはや「総持ち」という言葉はなじまないだろうと考えます。

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 伝統木造の耐震性に関する誤解・5
「建築基準法では伝統構法は建てられない。」

 法令の話になりますが、建築基準法で伝統構法を建てられない、とはさすがに最近言われなくなりましたが、建てにくい状況は確かにあります。今、限界耐力計算のルート、それから、時刻歴応答計算のルートなどがあります。それから施行令の四十六条第二項で、壁量規定の適用除外というのがありますが、残念ながらこれは今、製材を使うとすると、JAS(日本農林規格)の構造用製材でないとこのルートに行けないので、ちょっと伝統構法になじみが悪い面があります。しかし、そのような、いくつかのルートがあるということは、皆さんご存知だと思います。

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 伝統木造の耐震性に関する誤解・6
「石場建ての建物も、限界耐力計算をやれば建てられる。」

 石場建ての建物も限界耐力計算をやれば建てられると、誤解をされている方が結構いると思います。もちろんちゃんとやれば建てて良いはずです。しかし、おそらく今、限界耐力計算で石場建てをやっているという人は、足元が本当に動くか動かないかを、ちゃんとチェックされてない方が多いと思います。
 まともにやろうとすると、限界耐力計算の元になっている、地震の応答予測方法の等価線形化法の考え方を使えば、足元がどれくらい滑るかも計算できないことは無いんですが、当たり前にそのままやると、はずれます。工夫をすればちゃんと予測が出来るような方法も編みだすことは出来ると思いますが、今の段階では出来ません。
 石場建てで、限界耐力計算をやるのは良いんですが、足元が動くというところまで計算に入れているのでしょうか。また、足元が動いた場合、特に大きな礎石を用意するとか、べた基礎にするなどでなく、普通の礎石だと足元が滑り落ちます。滑り落ちて地面にぐさっと入った時の衝撃力はどのくらいですか?それにより加速度が入って倒壊することは無いですか?そういうところまで、全部チェックしていますか?
 今、関西の方では足元が石場建てでも動かないことを確認できれば限界耐力に持っていこうという話をしていますが、摩擦係数が0.6くらいあるという前提で話をされているので、それはちょっと大きすぎるのではないかと、個人的には思っています。いずれにせよ、やってやれなくは無いはずですが、大変難しいです。

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 伝統木造の耐震性に関する誤解・7
「建築基準法の耐震についての要求レベルは高すぎる。大地震に対して倒壊さえしなければ壊れても構わない」

 一般の方とお話をしているときに、建築基準法はちょっと厳しすぎない?うちの建物は、倒れさえしなければ損傷しても良いんです。だから基準法は要求が高すぎます。と言う方がよくいます。けれど、基準法が要求しているレベルというのは大地震動で倒れないことであって、大地震動で壊れないことでは無いのです。基準法の要求を震度で説明すると、誤解があって大変なのですが、大地震だと震度6強から7くらいと言っています。その位の地震に対して基準法は壊れないことは決して要求しておらず、倒れないことを要求しています。かなり傾いても倒れなければ良いという態度ですね。今では、一般の方に、そういう話をすると、逆に「そんなにゆるくて良いんですか?うちの建物は震度6強で壊れては困ります。」という方もまた、いますが、基準法は最低要求なので、そのレベルです。

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 伝統木造の耐震性に関する誤解・8
「建築基準法は120分の1の変形時の耐力で決めているが、伝統木造はその後まで粘る。」

 現在、壁倍率を決める時に使われる4つの指標があります。
1/120の変形制限というのは、この中の一つです。伝統的な構法、土塗り壁などを実験すると、これとは別の要素で決まってきます。また、必ずしも伝統とは言い難いですが、落とし込み板壁や格子壁などの、木材のめりこみで抵抗するものは、変形はどんどん進むけれど決定的な破壊に至らないので、耐力が大きな変形までずっと上がっていく傾向があります。そういう場合に、初期剛性、最初の堅さが十分無いと1/120で決まってしまって、本当はもっと耐力が上がるのに、少し残念な感じは確かにします。しかし、仮に120分の1を緩和したとしても、今度は別の、だいたい大地震動時の性能(A)の指標でひっかかり、1/120が1/60まで増えるものではないので、似たような結果になると思います。決して1/120で冷たく切っている訳ではありません。そのほかの指標で決まって来るという話です。他の指標の中で一番良く決まってくるのが、大地震時に吸収するエネルギー量の指標です。
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posted by これ木連 at 20:19 | Comment(0) | 第1回勉強会(河合直人氏)報告 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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