2009年10月10日

第5回伝統構法を考える勉強会【拡大版】報告・・・パネルディスカッション(3)

パネラー
 後藤正美氏     岩波正氏       越海興一氏     大橋好光氏       鳥羽瀬公二氏   河合 直人氏
 
河合 1分だけ時間をいただきましたので。今日は、設計法の細かな話はしませんでしたけれど、簡易設計法で考えていることは、実はあまり細かいことは決めたくない。そこは大工さんにまかせるという姿勢でいいだろう。ただ、地震と風については、持っている耐力が総量でどれぐらいあるか、これが性能を決めますので、そのチェックだけはちゃんとやりましょうよ。それに伴って、水平構面や接合部とかが若干出てくることはあります。

先ほど、岩波さんから「研究者は黒子に徹すべし」というお話がありましたけれど、私は「一寸の虫にも五分の魂」で黒子に徹するのはかまわないんですけれども、建てられる物が安全であるということは必要だし、それが国民の生命財産を守る立場から、きちんと一般の人にも説明できなければまずい。だから、工学的な説明は必ずいると、こういうものに携わる研究者の良心だと思っているので、そこは譲れない。譲ってもかまいません。でも、関わっている研究者がそれを譲ったらどうなるでしょうか。設計法が陽の目を見るでしょうか。そこを考えて欲しいんですね。そういうものがこの委員会の成果として、世の中に出て行ったときに、それは必ず潰されます。ほかの構造分野の人から叩かれて潰されます。そのときに、唯一武器になるのは工学的な説明なんです。そのことを、ちょっとだけ頭に入れておいてほしいと思います。

岩波 今日、大橋先生がおっしゃったこと、河合先生が短くおっしゃったこと。これを正しいなというふうに思われた方もおられると思います。僕は、それが間違っているとは一言も言ってはいないんです。ただ、その前提条件の中で正しいだけだと言いたいんです。

伝統構法をどうにかするという前提に立ってほしいということをいつも言っておって、それがどうしても理解していただけない。理解しているって言わはるんですけど、やっぱり僕らから言ったら絶対に理解していない。例えば、足元を留めても、留めなくても一緒ですよって言うんだったら、伝統構法は今まで留めてないもの多いやからそこからスタートしてくださいって言うんやけど、一緒やったら留めたらいいじゃないですかという話になるわけです。

ダメなものはダメ、危険なものは危険、これはいいです。足元を留めなかったらこういう危険があるというのはいいです。じゃあ足元を留めない建物はどうしましょということを委員会の中でもっと話してほしいわけですけど、最初から留めない話は議題からオミットされているわけです。

大橋先生は、適判に行く行かないは委員会が考える以外のことですよ、とおっしゃった。先生に言ってもいかんのやったら、越海さんにお願いせないかんことなのかもしれませんけども、それを何とかしようとするのがこの委員会だと思っています。もし、適判問題がこの委員会で判断できないことなんだという話であれば一番最初にそれを言ってほしかったということです。一年半ぐらいたったあと、それは委員会が考えること以外なんですよと言われても、これは困ったことですと言わざるを得ないですね。

足元に対してだけこだわっているということでなく、今の伝統、昔からある建物をそのままでないとダメだといっているんじゃなく、それをちゃんと評価できるようにしてほしいと言ってるわけで、足元を留めない建物に対して、なんら話が進められない中で、話がどんどん進むから私はこだわっているんです。先生のほうからいつも、提案してくださいと言う話は確かにもらっています。足元留めない建物の検討をやってくださいって提案を私だけでなくいろんな人もいっぱいしています。でも、やらないじゃないですか。提案しても先生の頭に既にあるイメージが存在するんです。設計法に対するイメージが。それに対して合わないものは、これはちょっとねー、となるわけですよ。

河合さん言われたように、今やったら工学的にピシッと答えだせるのはこんなものなんです。それ以外は難しいからわかりませんと言うのはけっこうやと思うんです。
だから、そう簡単に出来るものやないというのはよく分かるんです。言いたいことは、最大限の努力してますかって言うことです。研究者として、構造的なことだけを頭において一つの答えを出すということを元にどんどん進んでいると、伝統文化というものが置き去りにされているのではないかということです。河合先生が言われるように、継ぎ手があって、柱があって、梁があって、そういった部分の強度を全部組み合わせていくと、構造の安全性が説明できる。これは、正しい話だと思うんですけども、ただ、そういう話だけで進めていくと、その実験、そのデータが無いやつは全部×ということになるでしょ。だから、それはもっと先でないとそれこそ答えは出せないということです。

だから、3年間の間に、今わかっていることで、こういうことが出ましたというのはいいんですけども、それ以外の伝統構法をどうするんですかと言う視点がまったく抜けているんやないかと主張してるんです。もし、この委員会でそれを担当しないとしたら、どこでやるんですかっていうことをいつも言っているんです。越海さんの方から大橋先生たちに発注あったのは、そういうことも含めてやってほしいということやったと思うんです。

越海 僕の発注が悪いという話?走りながら軌道修正をしながらやっている感じです。先ほどから、データが出る出ないという話が出てきていますが、これは、住宅とか木造の生産過程からするとですね、今まであまり規制が厳しくなかったので、現場で大工さんは自分でいろいろ工夫しているのですね。建築確認が厳格化したときにもいろいろ言われました。ですから、設計どおりつくっていないこともままあると。その工夫をされているような仕様が固まらない方に、大橋先生がなんとかいろんな例を出してくれと言うのもちょっと無理な話ですね。

別のタスクチームの方で伝統構法のいろんな仕様を直接日本の各地にヒアリングをしたり、実物として集めたりということを追いかけ始めています。先に走っている大橋チームを追っかけて、補強のデータを集めているというのが現状です。あと一年半ぐらいありますので、できるだけ幅広くデータを集めたい。

それから、適判をどうするということですが、これは大橋先生に決めていただく問題ではなくて、法制度ですので、簡単に言えば、伝統構法よりも短いたったの60年しか歴史のない建築基準法で、人為的につくった法律ですから、法制度を変えてですね、適判をなくすとか、あるいは確認自体をなくすとかいうことは不可能ではない。国民の合意が一致すればできることではあります。ただ、先進国において、新しく出来る建物の外部チェック、許認可ですね、これをしていない国はまず無いわけです。これは、国際会議の中でもいろんな形で話をしています。なぜ、国際会議で話題になるかというと、一番新しいのは、先般イタリアでサミットを行ったところでも、報道では伝統の住宅の中で地震で300人ぐらい亡くなっております。そういったところに暮らしている人は、世界中にいるわけで、日本に限らないということです。伝統的なものを守りながら、それを使いながら、しかも地震や台風の被害に遭わないということは、どこの国でも共通の話題です。

日本の中で伝統構法を用いた、建築基準法が出来る前の住宅に喜んで住んでいただく方に、それなりの覚悟はいるということをもう一回、国会を通じて議論していただくならば、これからの伝統構法もそうしたらどうかというふうにはなると思いますが、これは大橋先生でなくても、私が一人の役人としてもですね、建物と中に住んでいる人が心中してくださいということはとても言えませんので、政治的にどこまで建物と人命と伝統文化、歴史とマッチングさせていくかということは、そういった形での議論をしない限り、岩波さんが言っているような形でものが進むとは僕は考えられない。これは非常に重い話です。

後藤 ありがとうございます。まだまだ、話足りない方がいらしゃると思いますが。特に何かあれば、一言、二言で。

大橋 一言だけ。先ほど、腰原さんの最後も岩波さんも文化を取るか安全を取るかという設定をされたんですが、私は、そういう設定は違うんじゃないかと思っているんですよ。極端に言うと、伝統といっても掘っ立て柱まで戻るのかといったら戻らないわけです。何が伝統構法なのかも人によってイメージが違います。伝統構法は固定したものではないと思います。ここで作ろうとしている設計法は、これから建てる建物のための設計法です。科学的な裏づけのある構法で、これから造っていこうということです。新しい設計法の下では、安全と伝統が両立できる。どっちを取るという設定はこの委員会にはふさわしくないと正直思っています。その意味でも、私は最初からできるだけ幅広く適用できる設計法を作りたいと思っています。

それから、何度も言っていますように、限界耐力計算というのは構造躯体の応答のことしか告示には書かれていません。各部構法をどこまで計算するかは、設計者が決めなければいけないんです。限界耐力計算で、できるだけ自由にしたい、仕様もあまり決めたくというのであれば、各部構造まで詳細な計算をしなければいけません。計算を簡単にしたいのであれば、ある程度仕様は特定しないわけにはいきません。それは、私は当然だと思います。ですから、自分たちのやろうとしている構法や、その自由度を決めてくださいというお願いをしているわけです。

後藤 この後、情報交換会で懇親会もありますから、そちらへ参加いただいて熱い討論をお願いします。本日は、どうもありがとうございました。


●まとめ/坂本功(NPO木の建築フォラム理事長)
055-20091010 218.jpg今日の話を聞いていまして、議論はまだ関係者が共通の土俵では議論できる状態にはなっていないと感じましたので、これから以降は私の感想です。こういう機会は何度もやられているはずなんですが、今日でも決着がついていませんし、永遠に付かないのかもしれません。しかし、いろんな場で今日のような意見の交換、情報の交換があるべきだと思います。

設計法の議論ですので、おのずから建築基準法で想定している地震動が対象ということになります。震度6強から7程度でかろうじて倒壊しないと、そういう点に対して伝統構法をどう設計したらいいのかという話ですが、新耐震基準の保有水平耐力であれ、性能設計の限界耐力計算であれ、たまたま現行の耐震基準でそういうふうに想定しているだけで、自然はそんなものではありません。もっと強い地震動が起きる可能性は十二分にあります。現に、14年前に起こりました兵庫県南部地震の神戸の揺れは、震度6のところで取れたJMA神戸(海洋気象台の記録)の揺れの破壊力、強さは、基準法で想定している地質動の1.5倍。震度7のところの揺れのJR鷹取の記録は、おそらく基準法でごく稀と想定している地震動の2倍ぐらいの破壊力、強さがあったと私は思っています。ですから、単に基準法をクリアするという議論は、設計法としては必要ですが、人命を地震という自然の力から守るためには、たまたま現時点で決めているクライテリアにとらわれずに考える必要があり、今日よりはもっともっと厳しい話になるべきだと思っています。

2番目は、滑ることの可否というのがポイントのひとつになっていますが、技術的に言うと、想定する地震動の強さのレベルですね。滑るかどうかという摩擦係数の値で決るわけです。木造建築が持っている耐震性は、ベースシア係数で表されますが、これらが非常に微妙な関係にある。摩擦係数は0.1なんですというとがらっと変わってくるでしょうし、建物が持っている耐震性が1.5ぐらいのものがいっぱいありますということだったら、話は簡単なんですが、全てが0.3から1.0ぐらいの範囲にあるわけですね。想定する地震動をベースシアに換算すると0.2とか0.3とか1.0、滑るかどうかも摩擦係数が0.3から0.8ぐらい、木造が持っている耐震性も弱いものでは0.2から強いものでは1.0。これらの3つの要素は数値的に競合するようなところにあるので技術的に非常に難しく、きわどい組み合わせによってどうなるかわからない。まだまだ、技術的な検討が必要であると思います。

3番目ですが、これは河合さんが別の観点から言いましたが、やはり施主に対する説明責任というのは非常に必要になってくると思います。耐震性に関して言っても、もしこの限界耐力計算にしろ簡便法にしろ、滑らせるにしろ滑らせないにしろ、ここで言っている伝統構法で設計した建物とツーバイフォーや在来工法、プレファブであれ、がちがちに出来た建物とある地震を受けたときに、どっちがどの程度耐震的かということを聞かれたら、一般的な建物に関して言えば、ツーバイフォーやプレファプで建てたり、あるいはメーカー仕様の在来で建てた方が明らかに耐震的です。伝統構法が基準法をクリアしますということができても、出来上がるものの実態という意味では、まだまだ格段の差があると私は思っています。そういうことを設計者や大工さん、棟梁、工務店は施主にちゃんと説明する必要があると思います。

最後に、伝統構法の良さというものがいろいろあると思いますが、耐震性は概して低い。仮に耐震的に作ったとしても、伝統構法の良さが耐震性にあるというような倭小化した評価を私はしていません。私は伝統構法に対して理解がないかもしれませんが、伝統構法で建てられたお寺、神社、数奇屋、民家など非常に好きです。そういう意味では、専門家としては、伝統構法に現状では耐震性の乏しいものが非常に多いということを認識していますが、それにも関わらず伝統構法の建物が好きなもんですから、その意味で私にとっては葛藤があります。それだけに、私を含めて伝統構法の建物を、すでに建っているものもそうですし、これから建てるものが少しでも建てやすく、しかし安全に建てられるように微力を尽くしたいと思っています。勝手なことを申し上げましたがまとめに代えさせていただきます。

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posted by これ木連 at 08:22 | Comment(0) | 第5回勉強会パネルディスカッション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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